✥  運命の人[1]

このテキストは成人向けです。未成年者は閲覧しないでください。

・例の儀式の傷が深くてレハトが起きるタイミングを逃したら……なパラレル
・最初から最後までエロ
・タナッセが延々レハトを陵辱してる
・タナッセは本人が言うところの生殺し状態がずっと続いているのでストレスがマッハ




 これはこれは、ご機嫌いかがですか、王息殿下。このような場所で殿下と再びお目見えかなうとは我らが守護者たるアネキウスのお導きと……あーはいはい、わっかりましたよ、あ、まだあのガキまだ目え覚めないんだって? まあけっこうヤバイとこまでいったしな、マジでこのままあの世行きかもな。あれ? あのガキがくたばったらあんた助かるのか? はっはーそうか、そんなら神様にも祈りたくなるよな、あのガキが目を覚ましませんように、どうかこのまま死んでくれますように! ってね。助けたはいいもののやっぱ後悔してんだろ? あんたって最高に面白いよ、ほんとに。……ああところで殿下、処刑台に登らずにすむ方法をご存じになりたくはないですか? まあそういうなよ、この俺がタダで教えてやろうってんだからさ、とりあえず聞くだけ聞けよ、どうするかはあんた次第なんだしさ。あのガキはさ、今あんたに「喰われかけた」状態なわけ。で、喰った分は、あんたの中にあるんだよ。だからあのガキが元通りになるにはあんたがそれを返してやりゃいいんだよ。スゲー簡単だろ。ほっとした?
 どうやって? どうやってだと思う?




 仄暗い室内では二人の人物の立てる音だけが静かに続いていた。一人は小さな体を文机にしがみつくようにして支え、もう一人はその後ろから覆い被さるように密着して腰を動かしている。若い男女二人の振る舞いの意味は明らかだったが、そこには恋人同士のような甘やかなものはない。
 男は女の衣裳の裾を尻の上までたくし上げ、自身も服を脱ぐことなく彼女に押し入っていた。後ろから犯している男も、犯されている女もただ息荒くほとんど機械的にそれは続けられる。ほどなくして二人が繋がった部分から漏れる水音はその行為がいまや佳境に入ると教えていた。
 声もなくうなだれ固い机に身を預ける女を、男はさらに強く突き立てる。肉と肉がぶつかり合う音に混じって荒い息が断続的に続き、止んだ。女は机に肘を置き背を丸め、息を整えようと肩を上下させている。男はそんな彼女の様子を気遣うそぶりも見せず何度か自身を突き立て腰を動かして引き抜いた。
 ぶるりと身を震わせた女の下肢に溢れたものが伝う。男は眉をしかめ、汚れたものを相手の白い肌に擦りつけてぬぐっている。
「……気分はどうだ」
 レハトは答えなかった。冷たく固い机は肌に痛かったし、立ったまま揺すぶられ気分良くあろうはずはなかったが、しかし実際には彼女の体調は向上していた。内から力が満たされる感覚があり、こごった疲れが和らいで顔色も良くなっていた。行為後の虚脱感と力が満たされる充足感、同時に襲われる正反対の感覚に眩暈にも似た波が寄せ体がぐらつく。
「ご満足いただけたようで何よりだ」
 答えないレハトのあごを掴んで顔を覗き込み、タナッセは厭らしく鼻を鳴らす。彼女を犯し傷つけているのは自分だというのに彼の顔には軽蔑の色があった。そうすることで、罪の意識から逃れ得るとでもいうような。



 新年の最初の日、一年前の予定通り玉座の間にはヴァイルとリリアノの二人だけがいた。
 魔術を用いた忌まわしい儀式の後レハトは長い間目覚めず、その日に間に合わなかったのだ。年が改まるだけでなく国王の交代に伴い城中があまりに忙しく、もう一人のことなどほとんど顧みられなかった。二人目の候補者など初めからいなかったように滞りなく移譲の儀は済まされた。
 目覚めないレハトに不安と怯えを抱いているのはタナッセだけではなかった。
 意識のない主人の側に、その原因を作ったことが明らかである人物を忠実な侍従が近づけるわけがなかった。しかし、昏睡があまりに続きその顔からだんだんと色を失っていくことに焦り、ローニカは同席することを条件にタナッセの理屈にならない説得に説き伏せられることを選んだ。
 魔術師の話を信じる信じない以前に、そんな機会はこないだろうと、初めタナッセは考えていた。目が覚めればレハトは当然自分を告発するだろうし、継承者の命を危うくした者がその罪を死罪以外であがなえる道理はない。
 だが全てはレハトが目を覚まさなければ話にならない。
 それからタナッセは時折眠るレハトの側に立った。城中が新年の祝いと若い国王の戴冠に沸き立ち騒がしいが、その部屋はしんと静まりかえっている。日の光の下でも冷たい、未だ子供のままの唇に同じものを押しつけると腹の内から立ち上ってくる煙のように儚いなにかが解き放たれるのを感じた。そしてそうすると瞼を閉じたままの白い顔が微かに色づく。
 魔術師との再会は望んで持たれた機会ではなかったが、それはタナッセに希望を持たせるものであった。
 業火に焼かれながらも希望ある限り人はそれを目指して進む。それは呪いかもしれない人の業だったが、タナッセはそれにすがった。奪ったものは返せばいい、返すことができるのだと何度もタナッセは呟き自分に言い聞かせた。間違えことを正しやり直すことができる、その望みを何度も抱きながらついぞ果たすことがなかった彼にとってその考えは福音にも等しい啓示となった。

 月半ば目覚めた寵愛者は、誰も告発しなかった。
 そのことにタナッセは理不尽な怒りを覚えた。自分がいなければレハトの命も危ういことを今では納得しかけていたが、それでも正当な報いが下されないことに、自分が情けをかけられたことにいいようのない不快感を覚えた。
 そして自身の体の状態を告げられても何も言わないレハトに、苛立ちと薄気味の悪さ、居心地の悪さを感じていた。これがあるいは奴なりの復讐かもしれないと考えたが、そしてそうならばそれは見事に機能していたが、それでも彼がいなければレハトは生きていけない。古くからある甘い比喩ではなく、レハトはタナッセがいなければ生きてはいけない。
 レハトの生殺与奪はタナッセが握り、タナッセのそれはレハトが握っていた。タナッセがレハトに命を分け与えることを止めれば彼女も告発をためらわないだろう。今からでも告発が行われれば彼の命は断頭台の露と消え、タナッセを失ったレハトもまたその命が潰える。
 レハトはタナッセの再度の婚約の申し出を受け入れた。二人はいまや名実共に運命共同体だった。



 腕の中にすっぽりと収まる体は冷たいままだ。タナッセは深く口づけ舌を絡ませて彼女が暖まるのを待った。この小さな体の中にレハトの全てがあるのだと思うと奇妙な戸惑いが彼を襲う。彼女の命、彼女の人格、それらがこの肉体に閉じ込められ自分の腕に収まって息づいている。
 柔らかな唇を吸い背骨の一番下をそっと撫でると、小さな頭が反射のようにぴくりと動く。そのまま背筋をなぞると触れあう体に緊張が直接伝わってくる。無意識なのか彼女はタナッセの服を掴み、力を込める。固く握りしめられた手を愛撫して開かせるとレハトは体を震わせた。
 何かするたびに率直に反応する体がタナッセは好きだった。自分が他者に強く影響していると自覚するのは気分がよかった。
「……本日の舞踏会に出席するそうだな。今するか、それとも後にするか?」
「……あなたの好きなように」
「……ああそうか、では後ほど」
 濡れた唇を眺めながら問うと、レハトはぼんやりと返事をする。レハトの大抵の返事はあなたの好きなように、だった。

 久方ぶりに二人目の寵愛者が舞踏会に出席するとの報せは衣裳部屋から城中に広まった。元王息との不穏な噂、遅れた成人の儀、唐突に得られた病。彼女の存在は物珍しい獣と同じように人々の耳目を集め、大広間はいつも以上の盛況を見せた。
 水晶の灯りは王城の権威そのもののように煌めいていた。初めて見たときはその絢爛さに息をのんだものだが、今はただ目にうるさく、人々の視線を通す光が疎ましかった。
 しかしレハトはまったく落ち着いていた。自分が欲しかったものは何一つ手に掴めなかった。生きる理由をひねり出すのも馬鹿馬鹿しい。王城の人間のことなどしったことか、見たければ気の済むまで眺めればいいのだ。
 磨かれた床を滑り大広間を堂々と縦断し、寵愛者は当然のごとく壇上近くの上座に席を取った。
 頭の先からつま先まで、指先の所作から足捌きまで熱心な視線を感じる。それは彼女の姿に何か自分たちの想像を追認するような痕跡がないかと期待を込めて観察する、いつもの貴族達の暇つぶしの一つだった。
「レハト様、どうかされましたか」
 ふと洩れた笑いに側に控えていた侍従が控えめに質問してくる。
「だって、ローニカが緊張してるのがおかしくて」
「……これは、失礼いたしました」
「いいのよ。初めてここに来たときはすごく不安で、ローニカが落ち着いて側にいてくれたことが頼もしくて、嬉しかった。人はどんなことにも慣れるって、本当ね。今は何ひとつ緊張なんてしない」
 しかしその言葉はすぐに裏切られた。視界の端に捉えた姿にレハトは一瞬息詰まる。タナッセは不機嫌さを隠しもせず広間を渡ってきた。
――来ないかと思ったのに。
 ダンスの誘いは体調を理由に断れたが、代わりにひっきりになしに話しかけられるのは閉口した。こんなことなら一曲くらい踊ったほうが時間が潰せたと悔やんでも遅い。城に居るからには顔を出した方が無難だろうと思って出席しただけなのだから、面白かろうはずもなかった。
「これは、レハト様! ようやっと再会できましたね」
 次に声をかけてきた男は先日箔押しの釣書を寄こしてきた地方の子爵の長男で、押しの強さを除けばそれほど嫌な相手ではなかった。見舞いの言葉から成人の祝い、容姿を褒め称える美辞麗句と男の話はとめどなく続く。いい加減相手の顔にも飽きてきた頃、横顔に視線を感じた。目玉を動かすとタナッセが目を逸らしてこちらに背を向けるところだった。露台に消える後ろ姿をレハトは見つめた。会話を適当に切り上げ、そこに向かうだけの勇気をかき集める時間、レハトはしばらく待った。

 露台のひときわ暗い、奥まった場所にタナッセは一人居た。侍従を残し、レハトが一人近づくと顔を上げずに口を開く。
「ずいぶんと楽しそうだったな」
 嫉妬じみた言葉にレハトは動揺したが、タナッセの血の気の引いた顔は彼女が心の片隅で期待したものとは無縁だった。それはレハトの歓心を得ようとする男にではなく、脚光を浴びる寵愛者に対しての妬心だった。レハトはタナッセのいまだ底の見えない苦悶にたじろぐ思いだった。印などレハトにとって今さらどうという意味もなかった。
 肩が抜ける勢いで腕を引かれてよろめく。痛いと抗議の声を上げる間もなく口づけられすぐに離された。
「タナッセ」
 何を言おうとしたのか分からないままレハトは名を呼んだ。タナッセは彼女の首筋に歯を立て舌を這わせる。夜気の中そこだけが生々しく温かい。何度も唇で強く吸われ、レハトは彼が何をしようとしているのか悟った。首の出る衣裳だ、広間には戻れない。
 別に構わなかった。酒と香水と細かな埃の舞う広間で無意味なおしゃべりを聞いている振りをするより、冷たい風に吹かれタナッセに口づけられているほうがよほど気分がよかった。
「……抵抗しないのだな」
 苛立たしげに頭を振って呟く声は苦々しい。抵抗してもしなくても同じことなのに往生際の悪いことだと、そんなタナッセを可哀想に思う。
「……人が来るよ」
「向こうで避けるだろうさ、何せ寵愛者様の逢い引きの真っ最中だ」
 吐き捨てるように乱雑な口調のタナッセはいつも以上に険悪な空気を出している。もしかしたら少し酔っているのかもしれなかった。
「……タナッセ」
 手のひらが太ももを滑って付け根をまさぐりだし、思わずたしなめるような声が出る。タナッセは構わず彼女の下穿きを弛め指を差し込んできた。
「い、くらなんでも……こ、こんな所で最後までする気?」
 タナッセは答えず手を動かし耳朶をはむ。息苦しいほど強く抱きしめられて、レハトはタナッセの背に手を回した。

 露台に備え付けられた長椅子に腰掛け、タナッセは彼女を上に跨がらせた。今のところ他に人の気配はないが、それはきっと侍従達が大急ぎで人払いをしているからだろう。それでも明日には皆が噂するだろうに、そういったことをタナッセは何より嫌っていたというのに、彼をそこまで捨て鉢にさせているのはやはり自分なのだろうとレハトは闇夜に混じって窺えない顔色を窺った。
 タナッセは下衣の隙間から自身を引っ張り出すと、レハトに握らせる。掴まされたものはひどく熱い。そろそろと撫でると唾を飲み込む音が聞こえた。
「……来い」
 低く掠れた声で命令され、短い逡巡のあとレハトは腰を沈めた。
 まだ十分に湿っているとは言い難い場所にあてがうと、タナッセはレハトの腰を強く引き寄せた。腹の中が押し広げられるような圧迫感にレハトは知らずうめき声を洩らす。
 苦痛の声にわずかに満足したタナッセは体を抱いてやった。腰をずらし彼女の肩を押さえつけ奥まで侵入すると、肩に乗せられた頭から短いため息が漏れる。
 そのままじっとしていると強ばったレハトの体がゆっくりとほどけていった。
「タ、タナッセ、音が……」
 腰を動かすと小さく水音が耳に届く。
「お前がそう淫乱だから悪いのだろう、さっきまでこんな所だの何だの言っていたのにもうこれだ。ほら、終わらせて欲しかったらさっさと動いたらどうだ」
 言いつのりながら興奮する質なのか、タナッセはいつも言葉でなぶった。覚悟を決めたようにレハトはゆるゆると動き始める。下から突き上げられ悶える姿はタナッセに扇情的に映った。
「はっ……お前は、まったく口先だけだな、嫌と言いつつ、このざまだ」
 レハトは首にすがりついてタナッセの上で体を跳ねさせる。鼻にかかった嬌声を微かに洩らし、夜風に髪を散らしてきつく目を閉じるレハトを、タナッセは泣きたいような心地で見つめた。


 最早隠しおおせることではないと判断したのか、リリアノは自身の息子と二人目の寵愛者の婚約をあっさりと発表した。自らが触れた手出し無用の沙汰ははこのためかと、貴族諸侯の反発は激しかった。特に当人たちがまったく仲睦まじくは見えず、常に節度を持った距離でことさら儀礼的に接しているがために、明らかな政略結婚だと無能な息子に厄介者の印持ちをあてがうつもりだと、ランテの権勢のためなら規定も道徳も踏みにじる強欲さだと罵声は極めた。
 タナッセは周囲の嘲笑や怨嗟の声には耳を貸さなかった。慣れきっていたということもあったが、あれほど心動かされていた彼らの言動に興味を持てなくなった。
 レハトはそれが常だというように何も言わなかった。成人してから、正確には儀式の後目覚めてから彼女は口数が極端に減った。折れそうに華奢な体と病的に生白い肌とが相まって彼女こそが生け贄の兎鹿だと噂された。ランテのさらなる増強を目論む先代と現王のために、元王息――徴もなく怯懦で惰弱な名ばかりの王子だった男に捧げられた生贄。
 レハトはその胸の内を誰にも何一つ告白せずにいた。もはや彼らの権力闘争には興味が持てなかったし、自分を殺したいほど憎みながら夫婦になることを選んだ人にかける言葉を思いつけなかった。今さら愛を告げても彼を混乱させ、苦しみをさらに深めるだけだ。それなら互いに憎みあい、損得ずくで側にいるのだと思われていたほうがずっとすっきりすることだろう。愛は全てを救ったりはしない、それがレハトの出した結論だった。


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